不当懲戒申立てについて

 いちいち裁判例を示すの面倒なので、備忘録的に。

懲戒請求が不法行為となる場合について

 最判平成19年4月24日民集61巻3号1102頁より

 弁護士法58条1項は,「何人も,弁護士又は弁護士法人について懲戒の事由があると思料するときは,その事由の説明を添えて,その弁護士又は弁護士法人の所属弁護士会にこれを懲戒することを求めることができる。」と規定する。これは,広く一般の人々に対し懲戒請求権を認めることにより,自治的団体である弁護士会に与えられた自律的懲戒権限が適正に行使され,その制度が公正に運用されることを期したものと解される。しかしながら,他方,懲戒請求を受けた弁護士は,根拠のない請求により名誉,信用等を不当に侵害されるおそれがあり,また,その弁明を余儀なくされる負担を負うことになる。そして,同項が,請求者に対し恣意的な請求を許容したり,広く免責を与えたりする趣旨の規定でないことは明らかであるから,同項に基づく請求をする者は,懲戒請求を受ける対象者の利益が不当に侵害されることがないように,対象者に懲戒事由があることを事実上及び法律上裏付ける相当な根拠について調査,検討をすべき義務を負うものというべきである。

 そうすると,同項に基づく懲戒請求が事実上又は法律上の根拠を欠く場合において,請求者が,そのことを知りながら又は通常人であれば普通の注意を払うことによりそのことを知り得たのに,あえて懲戒を請求するなど,懲戒請求が弁護士懲戒制度の趣旨目的に照らし相当性を欠くと認められるときには,違法な懲戒請求として不法行為を構成すると解するのが相当である。

損害賠償額の算定方法について

 東京地判平成15年10月15日より

 本件懲戒請求の内容は,いわば難癖をつけるという種類の低次元のものであり,これにより原告が懲戒を受ける可能性は小さかったと思われる。本件懲戒請求から5か月以内に,懲戒委員会の審査に付さないとの決定が出されている。本件懲戒請求により,原告の代理人としての活動が実際に萎縮させられたこともない。

 しかし,被告は,原告と面識がないにもかかわらず,相手方当事者であるBの意向に沿って本件懲戒請求をし,これを悪用してCにベンツの引渡しを強要しようとした。これは,原告の弁護士業務の妨害を目的としたものでもあった。本件懲戒請求は姑息で悪質なものというほかない。このような濫用的申立てはできる限り排除されなければならないし,将来にわたって抑止されるべきである。また,原告は,本件懲戒請求により,弁明書の提出を余儀なくされるなどの迷惑を被っている。不当な懲戒請求が弁護士の名誉感情を損なうことは多言を要しない

 このような事情を考慮すると,本件懲戒請求により原告が被った精神的苦痛に対する慰謝料は,300万円と認めるのが相当である。