コンピューター・ゲームと著作権

この文章は、CIPICジャーナル1998年10月号に掲載したものを、CIPICの許可を得てアップロードしたものです。

1 コンピュータ・ゲーム

 電子計算機を機能させて一つの結果を得たいわけではない。モニターに映し出される影像をみて感動したり見聞を広げたりしたいわけではない。モニターに映し出される影像・スピーカーから流れる音声の変化に合わせてコンピューターに指示を出す。それに応じて影像・音声がまた変化する。望んだ通りの影像・音声の変化が現れるように、コンピュータに指示を与えることを「鑑賞者」が楽しむ。過程を楽しむのがコンピュータ・ゲームである。
 このような「娯楽」は、現行著作権法制定時には、起草者の頭の中にも立法者の頭の中になかった。したがって、著作権法その他の法令には、コンピュータ・ゲームの特性に合わせて、製作者、出資者、鑑賞者等の利害を調整した規定がない。これまで、下級審は、コンピュータ・ゲームを巡る紛争がおこると、言語の著作物、映画の著作物、プログラムの著作物などの規定を用いて、出資者の保護を図ってきた。しかし、近年は、出資者側の要求が明らかに過大になってきていることから、口述するとおり、その要求を下級審が棄却する例が増えてきている。

2 「コピー商品」の撲滅

 コンピュータ・ゲームに関する紛争が最初に法律問題化したのは、コピー商品を巡るトラブルであった。ゲームセンターや喫茶店におかれているゲーム機(いわゆるアーケード・ゲーム)においては、プリント基板ごとコピーしてしまえば、(開発費を負担しない分)低コストでゲーム機を製作し、低価格で販売することができる。これを放置することは、他の著作物のコピー商品を放置することと同様に、許されないことであった。価値判断自体は、ほぼ共有されていた。ただし、当初は、コンピュータ・ゲームが「著作物」にあたることを明示的に示す条文がないことから、法律実務家・研究者は、そのための理論構成を模索していかなければならなかった。
 一つは、コンピュータ・ゲームのプログラム部分(ソースプログラム)を「言語の著作物」とするものである。スペース・インベーダ・パート2事件[注1]がこれにあたる。当時は、コンピュータ・プログラムが「著作物」にあたるか否かにつき争いがあったが、昭和60年、著作物の例示の一つに「プログラムの著作物」(10条1項9号)を含める法改正がなされた。以降、コンピュータ・ゲームのプログラム部分は、プログラムの著作物として、無断で製作されたコピー商品の流通を差し止めたりすることができるようになった。
 もう一つは、コンピュータ・ゲームによりモニター上に映し出される動画影像を「映画の著作物」とするものである。パックマン・アーケード事件[注2]、トップレーサー事件[注3]、ディグダグ事件[注4]、ドンキーコング・ジュニア事件[注5]、パックマン・シェアウェア事件[注6]がこれにあたる。
 ただし、モニター上の動画影像を「映画の著作物」としたことが妥当であったかは、もう一度検討されるべきであろう。トップレーサー事件やディグダグ事件の場合、動画映像部分を「映画の著作物」としなくとも、プログラム部分を「プログラムの著作物」と認定すれば、妥当な解決を図ることができた。パックマン・アーケード事件の場合、無断複製されたゲーム機を喫茶店内に置いて客に使用させていた経営者が「上映権」侵害ありとして損害賠償を命じられたのであるが、導入したゲーム機が新製品だと当該経営者が認識していた場合にまで賠償責任を負わされるのが妥当であるかは判断の分かれるところである[注7]。また、ドンキーコング・ジュニア事件の場合、告訴人が外注して制作した「ドンキーコング」の主要部分を無断で流用して制作したものであるから、プログラム部分については告訴人に著作権者として告訴権を有しているとの証拠がないとされた事案である。このように自ら違法な複製者に過ぎない者に告訴権を認めることが妥当であったかも判断の分かれるところではないであろうか。
 また、パックマン・シェアウェア事件判決は、「パックマン」とルール及びキャラクターが類似しているゲームソフト(「Chomp」)を作成(プログラムは全く異なる)した場合に、「Chomp」は「映画の著作物」としての「パックマン」の複製品にあたると認定したが、ルールなりアルゴリズムなりが同一ないし酷似していたとしても、それ自体は著作権侵害の有無の判断とは切り離すべきである。すると、「パックマン」や「モンスター」等のキャラクターが類似しているかどうかが著作権侵害の有無の判断基準になっていくべきようにも思われる。
 

3 遊び方の指定

 CPUの処理速度の向上と、内部・外部記憶の容量の増大は、ゲームを難化させる方向へと向かった。もちろん、ユーザーの中核を占める層が、年齢を重ねるに従って、より難易度の高いゲームを求めていったということもゲームの難化を促進していった。一方で、際限のないゲームの難化現象は、ついて行かれない消費者を大量に生み出していった。そこで、技量の低いユーザーでも人気ゲームをクリヤできるようにするための情報サービスが生まれていった。しかし、ゲームメーカーはこのようなサービスを禁圧する方向で動いた。
 まずやり玉に挙がったのは「謎解き本」といわれるゲームの解説書であった。謎解き本には、ゲームをクリヤしていく上でのヒントが記載されている。ゲームメーカーは、どの程度のヒントまでは明らかにしてよいかをコントロールしようとしたのである。ドラゴンクエスト事件[注8]は、ヒントを解説するに際して、ゲームの映像画面を掲載した点を捉えて著作権侵害と判断されたように見える。ビジネスソフトの使い方を解説するのにソフトメーカーの許諾がいらないことを考えれば、そのゲームについてクリアのためのヒントを出したり解説をしたりする権利までゲームメーカーに専有させるのは妥当ではない[注9]。だとすれば、ヒントや解説のために必要な範囲内で映像画面を掲載しても、それは、「引用」(著作権法32条1項)にあたると解すべきであろう[注10]
 また、初期設定を標準のシステムよりも容易かつ自由にできるようにする小さなプログラム(三国志。事件[注11])や、特別な機能が使えるコントローラー(ネオ・ジオ事件[注12])、クリア直前の情報データを記録したメモリーカード(ときめきメモリアル事件[注13])を販売する行為を、ゲームメーカーは禁圧しようとしている。これらはすべて、ゲームソフトのプログラム部分は変更していないので、プログラムを変更されたという意味での「同一性保持権」侵害は主張しても認められる可能性は著しく低い。問題は、プレイヤーがメーカーの予定していたゲーム展開から逸脱したゲーム展開を経てゲームをクリアすることが、「映画の著作物」としてのゲームソフトの同一性保持権を侵害することになるのかということである。
 この点に関し、下級審判決は消極的であるが、正当である。例えば、推理小説を終わりの部分から読もうと、録画したビデオを早送りしてみようと、同一性保持権その他の著作者人格権に対する侵害にあたるとされていない現状において、ゲームソフトについてのみ、「著作者の意図したとおりにその著作物を享受しなければならない。」とする根拠は乏しいと思う。

4 流通の規制

 ゲームメーカーの支配欲は、自分たちが一旦適法に市場においた商品の流通にまで向かった。
 まずは、特にパソコン向けゲームソフトについて、レンタルが禁圧された(信長の野望事件[注14])。当時パソコン用ゲームソフトは主にフロッピーディスクで供給されており複製が容易だったこと、それ故、貸しレコードの場合とほぼ同様に、ゲームソフトが収録されたフロッピーディスクを借りてきたユーザーが、自分のパソコンを利用してブランクのフロッピーディスクにそのソフトをコピーして、もとのフロッピーディスクを返却するという運用が広く行われる危険があった。そのため、ゲームソフトはプログラムの著作物であるとして貸与権を行使してレンタルを禁圧したことは、当時の技術水準を前提とする限りにおいては、是認されるべきものであった。もっとも、ゲームソフトの大部分がロムカートリッジないしCD−ROMで提供されるようになると、一般のユーザーがソフトを借りてきてブランクのメディアにコピーして返すという運用が広く行われる危険性は低いから、ゲームソフトについてもレンタルを許諾すべきであるという声が高まってくるのである[注15]
 さらに近年は、ゲーム専用機用ゲームソフトについて、真正品の再譲渡を禁圧しようという動きが現れた。
 ゲームメーカーや、ゲーム機メーカーは小売店等に対して口頭又は文書で中古ゲームソフトを取り扱わないように要求し、右要求を聞き入れない小売店に対しては、取引拒絶を行ったり、継続的取引契約を解約したりして制裁を加えていった。ただし、平成10年1月20日、業界最大手である株式会社ソニー・コンピュータエンターテインメントによる上記行為は独占禁止法が禁止する不当な拘束条件付き取引であるとして、公正取引委員会は排除勧告を行うに至った[注16][注17]
 さらに、ゲームメーカーからなる事業者団体である社団法人コンピュータエンターテインメントソフトウェア協会(CESA)は、違法中古ソフト撲滅キャンペーンを大々的に行った[注18]。しかし、家庭用ゲーム専門店の業界団体であるテレビゲームソフトウェア流通協会(ARTS)もまた、ユーザーに対するアンケート調査を行ったり、ホームページに「違法中古ソフト撲滅キャンペーン」に対する反論文[注19]を掲載するなど、正面からこれに対抗した。また、弁護士及び法学者の有志からなる中古ソフト問題研究会[注20]も、「中古ソフト問題についての見解」[注21]を発表し、「違法中古ソフト撲滅キャンペーン」に対して疑念を表明した。
 さらに、CESA加盟の大手ゲームソフトメーカー5社は、平成10年6月12日、家電量販店の子会社であるゲームソフト販売会社(ただし、ARTS非加盟)に対し中古ゲームソフトの販売差し止めを求める訴訟を東京地方裁判所に提起した[注22]。被告たる販売業者の選択に関して識者から批判が集まる[注23]と、さらに大手ソフトメーカー1社を加えた計6社は、平成10年7月8日、ARTSの代表理事が代表取締役を務めるゲームソフト販売チェーン等に対して販売の差し止めを求める訴訟を大阪地方裁判所に提起した[注24]。ただし、大阪訴訟については、前記中古ソフト問題研究会に参加した弁護士の一部を含む合計20人の弁護士が被告らを支援し、ゲームソフトメーカーの主張に真っ向から反論を行っていくことになった。
 学説的には、ゲームソフトについて、ゲームメーカーに「用尽しない頒布権」を認めて、中古ゲームソフトの販売を禁圧する権利を与えることを望ましくないとする見解が圧倒的であり[注25]、現行法の解釈論としても、ゲームメーカーに「用尽しない頒布権」を認めない見解が近時有力となっている[注26]
 メーカー側は、表向きは、無許諾の中古販売により、メーカーに利益が入ってこないことを問題にしているようにも見える。しかし、メーカー側からは、一定の許諾料と引き換えに中古ソフト販売を許諾するシステムを構築しようという動きは見られない[注27]。むしろ、ゲームソフトの価格をメーカーサイドでコントロールするため[注28]に、中古市場を完全に禁圧しようとしているとしか思えないのである。しかし、メーカーによる価格維持行為というのは、本来許されざる行為であり、ゲームソフトについて特別扱いをしなければならないいわれはないであろう。
また、ゲームソフトがデジタル形式で記録されていることを特別な保護を必要とする理由に掲げている見解もある[注29]が、デジタル形式で記録されていることが意味を持つのは、「複製」を伴う場面においてのみであり、流通及び鑑賞(プレイ)の場面では、デジタル形式で記録されていようとアナログ形式で記録されていようと、有意的な差異はないのである[注30]
  

5 使用機器の自由化

 家庭用ゲーム機は、次々と新機種が現れ、旧機種は廃れていく。しかも、新機種と旧機種とは、他のメーカーによるものはもちろん、同一のメーカーによるものであっても互換性はない。そのため、従来は、自分が持っているゲーム機で動くゲームソフトしかプレイすることができなかった。しかし、すべての種類の家庭用ゲーム機を購入し保持しておくことは経済的負担が大きい。また、旧機種は、入手することがそもそも困難である。そこで、この事態に対応するためにユーザーの中から自然発生的に生まれてきたのが、エミュレーターである。
 ここでいう「エミュレーター」とは、家庭用ゲーム機用のゲームソフトを、パソコン上で動かすためのソフトウェアをいう[注31]。このエミュレータ用のソフトウェアは、インターネットやパソコン通信等を用いて入手することができる。
 エミュレータ・ソフトを用いてゲームをプレイするためには、エミュレータソフトの他に、ゲームソフトのROMカートリッジやCD−ROMに記録されているデータ(ROMイメージ)を入手する必要がある。ROMカートリッジ等からROMイメージを取り出してハードディスクやMOなどに記憶させることを(データを)「吸い出す」というのだが、自ら吸い出し用を機械を製作して吸い出しを行いてROMイメージを取得する場合と、第三者が吸い出しを行ったROMイメージをインターネット等を通じて入手する場合とがある。
 自分でエミュレーターソフトを実行してゲームをプレイするためにROMイメージを吸い出す行為は、私的複製(著作権法30条)ないしプログラム複製物の所有者による複製(著作権法47条の2)により、複製権侵害とはならない。
 一方、自らが吸い出したROMイメージをインターネット上にアップロードする行為は、公衆送信権(著作権法23条)の侵害にあたる。また、ROMイメージをMO等にコピーして公衆に頒布する行為は、複製権(著作権法21条)の侵害にあたる。したがって、そのようにして入手したROMイメージを利用してゲームをプレイした場合、違法複製物の知情行使(著作権法113条2項)として、著作権侵害にあたることになる(ただし、ごく親しい友人等に配布する場合、複製権のみなし侵害(著作権法49条)にはあたらないように思う。「公衆」に対する頒布ではないからである。)。
 これまでは、吸出し用機械が一般に販売されておらず、エミュレーターで遊びたい人々は吸出し用機械を自作しなければいけないこともあって、エミュレーターを用いてゲームをプレイするのはある種のマニアに限定されてきたから、ゲームメーカーとしても露骨な禁圧行為にでてこなかった。しかし、ROMイメージが広くインターネット上にアップロードされるようになると、吸出し用機械を自作できなかった人々まで広くエミュレーターを用いてゲームをプレイするようになっていった。現在のところ、インターネット上にアップロードされているROMイメージを入手してプレイする場合には、当該ゲームソフトの収録されているCD−ROM等をきちんと購入しておこうという自主ルールが生まれているところもある。もちろん、そのような配慮をしても、現行法の元では、他人が吸い出しを行ったROMイメージを入手してプレイすることは、著作権侵害にあたることにはなるであろう。しかし、メーカーの利益をできるだけ損ねないように真正品を購入した上でエミュレーター用のROMイメージの入手を図る誠実なユーザーに答えるためにも、ゲームメーカーは、一定の条件を満たせばユーザーがROMイメージを取得し使用することができる仕組みを構築するべきであると考える[注32]

6 ゲームソフトの著作物としての性質決定

 パックマン・アーケード事件において、コピー商品を禁圧するために、下級審がゲームソフトを「映画の著作物」と認定して以来、ゲームソフトは「映画の著作物」にあたるのだとする見解が多数説を占めてきた。しかし、これまで見てきたとおり、ゲーム産業の発展と技術の進歩に伴って、ゲームソフトをめぐる法的紛争は多岐にわたるようになってきた。そこでは、出資者は、ゲームソフトを「映画の著作物」と認定した下級審判決例を掲げて、「映画の著作物」の出資者としての保護を主張するようになってきている。しかも、彼らの主張(遊び方の規制や流通の規制)は、ゲームソフトの特徴(インタラクティブ性や流通形態等)と適合しないものなのである。
 もちろん、著作権法を改正して、ゲームソフトについては、どのような著作支分権が認められ、どのような著作支分権が認められないかを明らかにすることが望ましいことは確かである。しかし、そのような立法作業は、現段階では具体化していない。したがって、ゲームソフトに関する法律紛争全体を俯瞰した上で、クリエーターの利益と消費者の利益をうまく調和させるように、ゲームソフトの法的性質を解釈論として探っていくことが望まれるのである。
 例えば、CD−ROM等に記憶させたゲームソフトをそっくりCD−Rにコピーするような行為を禁圧する権利をソフトメーカーが持つことについては、抵抗が少ないであろう。また、ゲームソフトをプレイしたときにモニターに映し出される影像表現もまた、無断コピーから守るべきだという意見の方が強いように思う。ただし、ゲームのプロットやルールを先行者に独占させるとゲームの発展を阻害することになる[注33]ので、プロットやルールまで著作権法による保護の対象とすべきという意見は強くないように思う。
 一方、ゲームソフトに「用尽しない頒布権」を認めるべきでないことはほぼ共通している。また、ゲームソフトをプレイした際にモニターに現われる連続影像を多数人が鑑賞する状態というのは、特定のゲームについてのゲーム大会の決勝戦等を大画面スクリーンに映し出して鑑賞させるという場合くらいしか想定しがたい[注34]が、そのような用法を禁圧する権利をゲームメーカーに与える必要があるようには思えない。
 以上を踏まえるならば、ゲームソフトの法的性質を次のように捉えるのが妥当と考える。まず、ゲームソフトは、「プログラムの著作物」であるということを中核におくべきである。その上で、ゲームソフトをプレイした結果モニターに映し出される連続影像については、原則として、「ゲームソフト」というプログラムを実行して当該連続影像を作り出したプレイヤーの映像著作物[注35][注36]と捉えるべきであり、ただし、メーカーが用意したパーツ部分(例えばキャラクターデザインやマップ画像、際限なく繰り返されるBGMや、ミサイルが飛来していく姿等の短い連続影像等)については、別途美術(絵画)の著作物や音楽の著作物、映像著作物として捉えれば足りるように思うのである[注37]