インターネット紛争を民事訴訟等で解決するために解釈論でできること、立法を要すること

by 弁護士 小倉秀夫

 目次

  1. はじめに
  2. 相手方の特定←Updated
  3. 相手方の代表者の特定
  4. 裁判管轄
  5. 訴状等の送達
  6. 訳文の添付
  7. 執行

 はじめに

インターネットを活用した表現活動や経済活動は、もはや老若男女を問わず、広く普及した。これに伴い、そのようなインターネットを活用した諸活動に関する法的な紛争も激増した。

インターネットの商用利用開始黎明期には若干の混乱が見られたものの、インターネット絡みの法的紛争については、これに特徴的な要素を特に斟酌すべき場合を除いて、インターネットを用いずになされる表現活動や経済活動に適用されている法律がそのまま適用されることに、もはや争いはない。そして、実体法との関係でいえば、インターネットを用いたことで生じた特徴的な要素を織り込むべき部分は、立法又は法解釈において急速に織り込まれてきている。その意味で言えば、「技術の進展に法律が追いつかない」という状況にはもはやないといえる。

しかし、手続法、とりわけ民事訴訟法、民事保全法などの民事手続法においては、インターネットを活用した表現活動や経済活動にまつわる法的紛争に特徴的な要素が未だ十分に織り込まれていない。このため、実体法上認められることが明らかな権利が、手続法の不備のために司法的救済を事実上受けられずにいるという事態がしばしば生じてしまっている。

本稿は、インターネットを活用した表現活動や経済活動にまつわる法的紛争を民事訴訟、民事保全等で改善する上で何が問題なのかを指摘した上で、その改善策を、現行法の解釈論または立法論として提示しようというものである。

 相手方の特定

 原則

訴えを提起するに当たっては訴状を作成して裁判所に提出する必要があります(民事訴訟法113条1項)。そして、訴状においては、「当事者及び法定代理人」を特定する事項を記載する必要があります(同条2項)。

もっとも、被告の特定というのは簡単ではありません。原告となろうとするものにとって、被告にしようとしているその人物とは「請求の原因」として特定される事故・事件との関係でしか接触しておらず、その人物のことはほとんど何も知らないということは、全く珍しくないからです。ですから、被告の戸籍上の氏名と住民票の住所をもって特定しなければ訴訟を提起しなければならないなどということになったら大変です。

この点、裁判所は、原告の裁判を受ける権利をできるだけ広く保証するために、少なくとも被告が自然人である場合には、特定要件を緩やかに解釈してきました。

たとえば、古くは、大審判明治39年4月18日民録12輯617頁において「當事者及ヒ法律上代理人ノ表示ハ其何人ナルヤヲ認メ得ヘク人違ノ疑ナキ程度ニ記載スルヲ以テ足リ必スシモ詳畧ノ差アルヲ許サヽル法意ニアラス」とし、新しくは、東京高判平成21年12月25日判タ1329号263頁において、「民事訴訟の当事者は,判決の名宛人として判決の効力を受ける者であるから,他の者と識 別することができる程度に特定する必要がある。自然人である当事者は,氏名及び住所によって特定するのが通常であるが,氏名は,通称や芸名などでもよく, 現住所が判明しないときは,居所又は最後の住所等によって特定することも許されるものと解される」とした上で、「氏名と旧就業場所」による当事者の特定を認めました。これにより、原告に対し被告が自分の氏名として名乗っていた名称を被告の氏名とし、原告が知っている限りにおいて被告が最後に居住していた住所または被告が最後に勤めていた就業先の所在地を被告の住所地として特定し、訴状を作成することもまた許されるといえることになりました。

それでもなお、たとえば、詐欺師から詐取された金員を取り戻そうとするときなど、最後の住所も最後の勤め先もわからず、被告の特定ができずに訴訟を提起できない場合はあり得ます。ただし、リアル空間で生じた法律紛争に関していえば、相手方のリアル空間での住所又は就業先(過去に住所又は就業先で会った場所を含む。)にたどり着かない場合はあくまで例外的です。原告と被告は通常リアルの空間で接触しているからです。しかし、インターネット上の紛争に関しては、原則と例外が逆転します。あくまで仮想空間でしか接触していないわけですから、相手方がリアル空間でどのような名前を名乗っているのか、リアル空間でどこに住んでいて、どこで働いているのか、等を知り得る方が例外的なのです。

 匿名(仮名)のネットユーザーを被告とする場合

インターネットを用いて他人を侮辱したり他人の名誉を毀損したり他人の著作権や著作隣接権を侵害したりしようとする場合、実名(戸籍上の氏名)を敢えて名乗ってこれを行う人は稀です。多くの場合、その実名と紐付けていない仮名(ハンドルネーム)を使ったり、(システム上許されるのであれば)全く名乗らずにそれらの行為を行うのが一般的です。

このような場合、特定電気通信役務提供者の損害賠償責任の制限及び発信者情報の開示に関する法律(以下、「プロバイダ責任制限法」といいます。)4条1項に定める発信者情報開示請求権を行使することで、上記侵害者の氏名及び住所の開示を受けた上で被告を特定するのが一般的です。

具体的には、権利侵害情報が投稿されたウェブサービス(電子掲示板やSNSサービス等)の運営者に対し、当該情報が投稿された際に用いられたIPアドレス[注2-01]及び投稿がなされた年月日時分秒の開示を求め、次いで、当該IPアドレスを管理している経由プロバイダに対し、上記年月日時分秒に上記IPアドレスが割り当てられていた契約者の氏名及び住所の開示を求めることになります。

そして、掲示板やSNSの運営者がIPアドレス等の任意の開示を拒んだ場合には、運営者に対し発信者情報開示仮処分の申立てを行うのがすでに常套手段となっています。また、経由プロバイダが発信者情報の任意の開示を拒んだ場合には、発信者情報開示請求訴訟を起こすのが常道です。前者については仮処分での開示が命じられるのは、経由プロバイダのアクセスログ保管期間は通常3ヶ月程度であり、掲示板等の運営者からIPアドレス等の開示を受けるのに本案訴訟の確定を待たなければならないとすると、その後にIPアドレスの開示を受けても経由プロバイダの側でアクセスログをすでに消去しており発信者にたどり着けないという事態を不可避的に生じさせてしまうこと、他方、IPアドレスと投稿日時年月日だけを見ても投稿者がどこの誰なのかを判別することはできず、IPアドレス等を仮処分段階で先行的に開示させても、投稿者の利益を損なうおそれが少ないこと等の事情があるからです。

このように、匿名のネットユーザーを被告とするための法的な制度は一応整ってはいる[注2-02]のですが、この枠組み自体が、以下に述べるような点において、匿名のネットユーザーを被告とする民事訴訟を提起して紛争を解決しようと望む人々にとって足かせとなっています。

1.無駄な訴訟費用

掲示板等の運営者及び経由プロバイダの双方が発信者情報の任意の開示を拒んだ場合、掲示板等の運営者に対する発信者情報開示仮処分の申立てを行った上で、さらに経由プロバイダに発信者情報開示請求訴訟を提起しなければなりません。原告としては、発信者に対して損害賠償請求なり差止請求なりを行えればよいのに、それ以前に1つの仮処分と1つの本案訴訟を提起しなければならないということになります。そして、上記仮処分事件及び本案訴訟における申立人及び原告側の事務負担はかなり重いので、弁護士が代理人についた場合、「発信者が明らかになった後に提起する発信者に対する訴訟提起のおまけとして無料でやってあげる」というわけにも行かず、仮処分及び本案訴訟それぞれについて、相応の着手金及び成功報酬を請求せざるを得ません。さらに、仮処分ともなれば、担保として一定の金員を供託せざるを得ません。

2.無駄な時間

また、掲示板等の運営者に発信者情報開示仮処分を申し立てて、1回裁判官面接をした上で、さらに双方審尋期日を行い、保証金を供託するのに必要な期間のインターバルを開けて裁判所は発信者情報仮処分命令を下す。これを受けて原告が経由プロバイダを被告として発信者情報開示請求訴訟を提起し、何回もの口頭弁論期日を重ねてようやく第一審判決が下される。しかし、仮執行宣言はつかないので、控訴され、上告されれば、判決が確定するまで、発信者情報は開示されない。このため、現状では、発信者情報の開示を掲示板等の運営者に求めてから実際に発信者情報が開示されるまで、かなりの年月がかかることが想定されます。平成の民事訴訟法大改正の際は、紛争の迅速な解決というのが重視されていたわけですが、発信者情報開示請求制度を利用した被告の特定を要求する現行制度は、紛争の迅速な解決という目的には真っ向から反していると言えます。

3.立証責任の転換

プロバイダ責任制限法の所轄官庁である総務省及びその解説を真に受けた裁判所は、同法4条1項1号の文言が「侵害情報の流通によって当該開示の請求をする者の権利が侵害されたことが明らかであるとき」となっていることを奇貨として、開示請求者の側に違法性阻却事由がないことの証明責任を負わせています。

とはいえ、本当にこれを貫くと、事実上発信者情報開示請求権なんてあってなきがごとしものとなります。たとえば、自己の著作物を無断でネット上にアップロードしている匿名ネットユーザーについて発信者情報開示仮処分を申し立てるに当たって、① 上記アップロード行為前に債権者が著作権を第三者に譲渡していないこと、② 上記発信者に対して上記アップロードを許諾していないこと、③ 著作権法30条以下の権利制限規定のいずれにも該当しないこと、④ 権利濫用の抗弁が成立する余地もないことなどをすべて主張・立証しなければならないとなると、仮処分申立書の「被保全権利」欄は勢い大部になってしまいます。さすがにそれは非常識なので、現実には、ほとんどの抗弁は、債務者側から具体的な反論がなされない限り、逐一成立し得ないことを主張・立証することを求められません。

ただし、名誉毀損情報について発信者情報開示仮処分を申立てまたは発信者情報開示請求訴訟を提起したときには、真実性の抗弁が成立し得ないことの主張・立証は必ず求められます。そして、これが、被害者側にとって大きな足かせとなります。というのも、公に摘示されると自己の社会的評価を低下させ得る事実の中には、それが真実でないことを立証しやすいものと、立証しにくいものとがあるからです。そして、名誉毀損を受けている側が訴訟を提起したいと考えるのは、得てして、それが真実でないということを自ら積極的に立証することが難しい場合だからです(そのような事実摘示をしている側に具体的な根拠がないことを示すことによって、間接的に、その摘示事実が真実でないことを示したいのです。)。

 氏名はわかっているが、住所等がわからない相手を被告とする場合


[注2-01]Twitterのように、個々の投稿ごとに投稿者のIPアドレスを記録しているわけではないサービスにおいては、当該投稿がなされた直前に当該アカウントからログインがなされて以降に当該アカウントからログインがなされたときに用いられたIPアドレスと各ログインの年月日時分秒が開示されます。

[注2-02]もっとも、現行のプロバイダ責任制限法4条1項は、開示すべき発信者情報を「氏名、住所その他の侵害情報の発信者の特定に資する情報であって総務省令で定めるもの」に限定しているところ、「特定電気通信役務提供者の損害賠償責任の制限及び発信者情報の開示に関する法律第4条第一項の発信者情報を定める省令」の改正が技術の変化について行かれていないために、上記省令に規定されている情報の開示を受けても「発信者」を特定することができないという事態が生じ得ます。この場合、① 発信者情報開示請求訴訟の提起または同仮処分の申立を受けた裁判所は、上記省令を柔軟に解釈し、時には拡張解釈や類推解釈等の手法を用いてでも、「発信者」を氏名・住所を特定できるようにするべきか否か、② そのような柔軟な解釈がなされず、上記省令の不備のため「発信者」を特定することができなかった開示請求者は、省令が適切に改正されなかったために「発信者」を特定できずそのために発信者に対し権利行使をすることができなかったとして国賠請求をすることができるのかという問題が生じます。

 相手方の代表者の特定

 原則

訴訟や保全処分の当事者が法人である場合、当該法人の代表者が訴訟行為を行うこととなります(民事訴訟法第37条により準用される同法第31条)。このため、法人が当事者である場合、訴状や仮処分の申立書には、当事者たる法人の名称のみならず、その代表者の氏名をも記載することが求められています(民事訴訟法第37条により準用される同法第133条2項1号)。

当事者たる法人の代表者として記載された者が正しく当該法人の代表者であることの証明は、書面で行うこととされています(民事訴訟規則第18条により準用される同規則第15条)。当事者が国内法人である場合には、法務省のウェブページにアクセスして、当該法人について、登記事項証明書を取り寄せて、これを訴状や申立書提出時に一緒に裁判所に提出すれば足ります。この点については、インターネット紛争だからといって特別なことは何もありません。

 相手が外国法人である場合

しかし、インターネットの特徴の一つは、情報が国境を越えて流通すること、そして、情報やサービスの提供者と利用者とが必ずしも同一の国に所在しないことにあります。このため、被告や債務者が外国法人である場合がしばしばあるのです(例えば、FacebookやTwitter上の書き込みによって自己の名誉やプライバシー、著作権等が侵害された場合を考えてみましょう。)。このような外国法人を相手方として訴訟を提起しまたは仮処分等を申し立てる場合、誰を代表者とし、それをどのようにして証明するのかというのは、非常に難しい問題です。

もちろん、外国の法人が日本において取引を継続してしようとするときは、日本における代表者を定めなければならず(会社法第817条第1項)、かつ、外国会社の登記を日本国内においてする必要があります(会社法第818条第1項)。ここでいう「取引」には、日本国内在住者に対する情報財の提供や、日本国内在住者に対するSNS等の利用サービス等も含みます[注3-01]ので、日本在住者に利用されることを織り込んでインターネット上で各種のサービスを提供している外国会社(Facebook Inc,やTwitter Inc,等)は、日本国内における代表者を定め、日本国内において外国会社としてその旨の登記をする義務を有していると言えます。しかし、実際問題としては、外国会社としての登記をした上で日本国在住者向けのサービス提供を開始する外国法人は稀であり、したがって、外国法人相手に訴訟提起等をしようとした場合に、登記事項証明書の提出によって代表者たる地位を証明することができないという事態が発生してしまうのです。

では、日本国内における代表者を置いていない外国法人を被告として訴訟を提起し、または債務者として仮処分の申立てをする場合、どうしたらよいでしょうか。この問題自体は、インターネット紛争特有の問題ではなく、外国法人を被告とする訴訟を日本国内の裁判所に提起する国際民事訴訟に共通する問題ですので、国際訴訟に関する文献を見てみることにしましょう。東京弁護士会国際取引法部会編「国際訴訟のQ&A 具体的紛争との解決」13頁(枡本安正執筆担当)によれば、「原告は、訴訟を提起する場合、外国法人の法定代理人を調べる必要があります。外国法人の法定代理人を調べるためには、その外国所在の弁護士あるいはその他の者(現地所在の依頼者の駐在員等)に依頼して、その国の商業登記を調べるなり、その他の方法によって、社長(President)が誰であるかを調べてもらい、社長を被告の法定代理人として訴状に記載します。」とあり、同15頁によれば「社長または会社のその他の者が外国会社を代表していること」を「商業登記簿謄本または外国の公証人の面前における宣誓供述書によって」証明することになるとしています。従前の国際民事訴訟、とりわけ法人を相手方とする国際民事訴訟について言えば、国際的な取引の一翼を担うようなある程度大きな企業が当事者となっており、また、相手方の本国においても一定のビジネス拠点を有している場合が多かったので、このような手法が使えたのだろうと思います。しかし、インターネット紛争においては、個人や小規模の法人が紛争当事者となる場合が少なくなく、相手方たる法人の本国に何の拠点をも有していないという事態が十分に想定されます(例えば、一時期2ch.netのドメイン名の保有者は、フィリピンを本国とするレースクイーン社だったわけですが、2ちゃんねるで名誉毀損された被害者のほとんどはフィリピンに何の拠点も有していなかったわけです。)。すると、「現地所在の依頼者の駐在員等」その国の商業登記を調べてもらうということはおいそれとはできません。さらにいえば、そもそも、日本の法人・商業登記のような会社登記制度が整備されている国ばかりではありません。そのような制度が整備されていない国を本国とする外国法人を相手方にしなければならない場合、そもそも商業登記簿を調べてもらおうにも、その商業登記簿がないのです。しかも、そのような商業登記簿が未整備の国の一つに、ワールドワイドなインターネットサービスを提供する企業が多く所在するアメリカ合衆国が含まれているのです(米国の場合、会社に関する情報をどこまで、どのように公開し、公証するのかを州法で定めているので、ひどい州はどうしようもなくひどいのです。)。したがって、ここでは、相手方の本国に自分または知人を派遣して商業登記簿を調査しなければ、あるいは相手方の本国において商業登記簿制度が整備されていない場合にそのような国にいる人に当たりをつけて現地で公証人の面前における宣誓供述書を作ってもらえなければ、日本国内で訴訟を提起することも仮処分の申立てをすることもできないとすることが、原告ないし債権者の裁判を受ける権利の保障と、被告ないし債務者の適正手続きの保障との調整という観点から見たときに適切なのかということが問題となります。そう考えると、全ての法人について網羅的に法人登記がなされていることを前提とする国内訴訟での運用を、国際訴訟にまで敷衍してしまうことは、むしろバランスを欠くことに繋がるのではないかとも考えられます。

では、商業登記簿謄本の提出に代えて、どのような証明方法が認められるべきでしょうか。例えば、その会社自身のウェブサイトとか、その会社が外国の証券取引所に上場しているのであればその商品取引所が公開している情報の写しを提出することでもいいということにするべきではないでしょうか(それでもよいとする部もなかったわけではありません。)。

それでも、非上場で、かつ自社ウェブサイトで代表者に関する情報等を掲載しない会社を相手にする場合はやはり困ってしまいます。また、そもそも特定の役員を選任する義務がなかったり、法人自体が第三者たる会社の取締役になることを認める法制度を採用している国や地域もあり、そのような国や地域では、日本法的な意味での「代表者」がいなかったりするわけです。そういう企業との間で法的なトラブルが発生した場合に、資格証明が出せないので訴訟を起こせないということがあっていいとは私は思いません。

よくよく考えてみれば、そもそも原告の側で被告の代表者まで特定し、その証明まで義務づけられるというのはおかしな話です。相手方の組織内部の分掌関係まで通常は知らないからです。訴状の送達先を被告たる会社の本店ないし営業所としている限り、会社の代表者が誰であるのかわからなくても訴状は滞りなく送達されますし、訴状に被告たる会社の代表者が明記されたって、結局、受け取った訴状をまず開いて中の確認をするのは通常、代表者ではなく法務セクションです。そういう意味では、原告側に被告の代表者の特定及びその立証までを義務づける現行法は不合理であるということができます。したがって、立法論としては、原告としては、被告たる法人が実在しており特定の住所地を主たる営業所としていることまでを特定すればよく、被告の代表者を特定する必要まではないと言うことにするべきです。被告の側で、代表者自らが訴訟活動を行い、または、弁護士に訴訟委任をするときに初めて、被告の側の代表者の特定とこれを裏付ける資料の提出を求めればいいようにするべきです。

具体的には、

(訴え提起の方式)
第百三十三条  訴えの提起は、訴状を裁判所に提出してしなければならない。
2 訴状には、次に掲げる事項を記載しなければならない。
一 当事者及び法定代理人
二 請求の趣旨及び原因
を、
(訴え提起の方式)
第百三十三条  訴えの提起は、訴状を裁判所に提出してしなければならない。
2 訴状には、次に掲げる事項を記載しなければならない。
一 当事者
二 原告の法定代理人
三 請求の趣旨及び原因

などとしつつ、

(未成年者及び成年被後見人の訴訟能力)
第三十一条  未成年者及び成年被後見人は、法定代理人によらなければ、訴訟行為をすることができない。ただし、未成年者が独立して法律行為をすることができる場合は、この限りでない。

を、

(未成年者及び成年被後見人の訴訟能力)
第三十一条  未成年者及び成年被後見人は、法定代理人によらなければ、訴訟行為(訴状、控訴状、若しくは上告状又は呼出状、判決正本の送達の受領を除く。)をすることができない。ただし、未成年者が独立して法律行為をすることができる場合は、この限りでない。

とすることなどが考えられます。


[注3-01]会社法第817条第1項は、商法の平成14年改正によって改正された商法第479条第1項に対応する規定ですので、「日本において取引を継続」するという言葉の意味を解釈するに当たっては、平成14年の商法改正の趣旨に遡る必要があります。すると、平成14年改正前の商法479条1項においては、「外国会社が、日本において継続取引を行うに当たっては、日本における代表者を定めるとともに、日本国内に営業所を設置することが義務づけられ」ていましたが、「近時のインターネット等の通信技術の急速な進歩に伴い、外国との直接取引が盛んになってきたことから、外国会社に対して日本国内での営業所設置を要求することは過度な制限であるとの意見が出され、今回の商法改正で外国会社の営業所設置義務が撤廃され」(第一東京弁護士会総合法律研究所会社法研究部会編「新旧対照表付平成14年改正商法」269頁(千代田有子)たとあります。そうである以上、「インターネット等の通信技術を用いて、日本国内の顧客と直接取引を行う外国企業」は、「日本国内に営業所を設置する義務は負わないが、日本における代表者を定める義務は負う」会社としてまさに想定されていたものであって、これを「日本において取引を継続」しようとする会社から敢えて除外する合理的な理由はありません。法務省大臣官房参事官始関正光編『Q&A平成14年商法改正』においても、平成14年改正後の商法479条1項の「日本ニ於テ取引ヲ継続シテ為サントスルトキ」との解釈について、「改正法の下では、営業所を設置しない外国会社、例えば、インターネットを利用して外国の事業者等が日本の顧客に対して継続的・反復的に商取引を行う場合」もこれに該当するとしている。このような平成14年改正の経緯は現行会社法817条1項の解釈にも反映されており、同項における「日本において取引を継続」との文言について、「日本に営業所を設けず、専ら電子的な手法を通じた取引のみを行っている場合であっても、日本の顧客を対象に集団的・継続的に行われる場合には、継続取引に該当し得る」としています。これを受けて、会社法第817条1項の解釈としても、「日本に営業所を設けず、専ら電子的な手法を通じた取引のみを行っている場合であっても、日本の顧客を対象に集団的・継続的に行われる場合には、継続取引に該当し得ると解されるべきである」(江頭憲治郎=中村直人編著「論点体系 会社法6」69頁(金子圭子=石川祐)とされています。

 裁判管轄

 国内裁判管轄と国際裁判管轄

インターネット紛争の特徴の1つは、紛争当事者が互いにリアル社会で接していないにもかかわらず紛争が発生することが多く、したがって紛争の一方当事者の住所地/所在地に他方当事者が何の拠点をも有していない場合が少なくないということです。したがって、インターネット紛争においては、いずれの紛争当事者の生活/事業拠点を管轄する裁判所で審理を行うかがとても重要となります。そして、この「どの裁判所ならば審理を行えるのか」という裁判管轄の問題は、「日本の裁判所で審理を行うことができるのか」という国際裁判管轄の問題と、日本の裁判所が国際裁判管轄を有する場合に、日本のどこの裁判所で審理を行うことができるのかという国内裁判管轄の問題とに大別することができます。

国内裁判管轄の問題においては、仮に原告側の主張が通らず、被告側の生活/事業拠点を管轄する裁判所で審理せざるを得なくなったとしても、弁論準備手続きにおいて広く電話会議等を利用することができる現在の実務においては、第1回口頭弁論期日に原告またはその訴訟代理人が遠方の裁判所に出頭しなければならないこと、証人尋問が行われるとなれば尋問期日に原告またはその訴訟代理人が遠方の裁判所に出頭しなければならないことによる経費の若干の増大を招く程度で済みます(仮処分申立事件の場合、遠方の裁判所に係属してしまうと、裁判官面接や双方審尋期日に債権者またはその代理人が出頭しなければならない上、遠方の法務局に別途保証金を供託に行かなければいけませんので、さらに経費の増大を招きますが。)。これに対し、国際裁判管轄の問題で原告の主張が通らなかった場合には、外国の裁判所に訴えを提起しなければならないということになりますし、その場合、現地の弁護士に委任をせざるを得なくなりますから、その経済的負担は飛躍的に増大します(外国の弁護士は、日本の弁護士ほど低廉な価格で訴訟事務を引き受けてはくれません。)。名誉毀損や著作権侵害、あるいはEコマース周りの消費者紛争等であれば、その経済的負担に耐えられないため、おそらく司法的救済を諦めざるを得なくなることでしょう。

 インターネット紛争と国際裁判管轄

民事訴訟における国際裁判管轄[注4-01]については、長らく民事訴訟法等に何らの規定もなかったので、日本の裁判所は、条理に基づいて判断するといいつつ、原則として、国内裁判管轄に関する規定からこれを推知するという運用をしてきました。しかし、それも不便なので、平成23年の民事訴訟法改正により、日本の裁判所に国際裁判管轄が認められる場合が明示されることになりました(民事訴訟法第3条の2〜同第3条の12)。

このうち、インターネット紛争で重要なのは、第3条の3第5号、第3条の3第8号、第3条の4、第3条の7です。以下、順に見ていくこととしましょう。

 日本において事業を行う者に対する訴え(第3条の3第5号)

 日本において事業を行う者に対する訴えは、その者の住所または主たる事務所等が日本国内になくても、日本の裁判所に国際裁判管轄が認められます。日本国内に従たる事務所等がある場合には民事訴訟法第3条の3第4号が適用されますので、5号に基づいて日本国内の裁判所に訴えを提起する場合、被告の事務所等が日本国内にある必要はありません。括弧書きで、「日本において取引を継続してする外国会社(会社法 (平成17年法律第86号)第2条第2号 に規定する外国会社をいう。」と定められていますので、既に述べましたとおり、日本在住者に利用されることを織り込んでインターネット上で各種のサービスを提供している外国会社は全てこれに含まれることとなります。

実務的には、サービス事業者の側で利用者のために作成しているコンテンツ(メニュー項目や利用規約、ヘルプ表示等)に日本語で作成された含まれていれば、日本在住者に利用されることを織り込んだ事業として位置づけられることとなります。もちろん、事業者側で日本語で作成したコンテンツを用意していることは「日本において事業を行」っていると認定されるための必須の要素ではなく、そのような日本語のコンテンツがなくても、それ以外に「日本在住者を利用者として織り込んでいる」ことを伺わせる要素があれば、「日本において事業を行」っていると認定される可能性があります。例えば、インターネット通販で日本在住者にも商品を送付していたとか、日本国内の利用者が送金しやすいように日本の銀行に代金等の送金用の口座(その口座の保有者自体は第三者でも構いません。)を有していたような場合です。広告モデルで運用しているサービスにおいて、日本在住者に対しては日本在住者用の広告が表示されるようになっている場合も、基本的には「日本において事業を行」っているということができるでしょう[注4-02]。東京地方裁判所民事第9部(保全部)では、外国に本社及びサーバがあるSNSサービス事業者に対する仮処分申立て事件の国際裁判管轄の根拠条文は、本号に置いているとのことです。

そして、本号は、請求の内容を問いませんので、持参債務か取立債務か争いのある債務を訴訟物とする場合でも、日本の裁判所に国際裁判管轄を認めることができます。例えば、プロバイダ責任制限法第4条第1項に基づく発信者情報開示請求訴訟等は、本号を援用することによって、日本に国際裁判管轄が認められることとなります。

 財産権上の訴え(第3条の3第3号)

当該訴えが金銭の支払を請求するものである場合には差し押さえることができる被告の財産が日本国内にあるときには、金銭の支払いを請求する訴えを日本の裁判所に提起することができます。被告が日本国内に不動産や動産を持っている場合に、本号により日本の裁判所が国際裁判管轄を有するのは当然のことです。さらに、日本国内に債務者の住所地がある債権を有する場合には、その債権は日本国内にあることとなりますので(民事執行法144条2項)、日本の裁判所が裁判管轄を有することになります。

 事務所又は営業所を有する者に対する訴えでその事務所又は営業所における業務に関するもの(第3条の3第4号)

外国会社は、日本国内に事務所または営業所を置くことができます(民事訴訟法第3条の3第4号)。そして、日本国内における事務所又は営業者における業務に関する訴訟については、日本の裁判所が国際裁判管轄を有することとなります。もっとも、日本国内に事務所又は営業所に置いている外国会社は基本的に日本において継続的に事業を行っているため、同号の適用がなくとも、日本の裁判所に国際裁判管轄が認められることになります。

 不法行為に関する訴え(第3条の3第8号)

不法行為に関する訴えについては、不法行為があった地が日本国内にあるときは、日本の裁判所が国際裁判管轄を有します。「不法行為があった地」とは、加害行為が行われた地だけではなく、加害行為の結果が発生した地を含みます。したがって、加害行為自体は国外で行われていても、その結果が日本国内で生じたときは、日本の裁判所が国際裁判管轄を有するということとなります。ただし、加害行為が国外で行われた場合であって、日本国内におけるその結果の発生が通常予見することのできないものであったときについては、例外的に、日本の裁判所が国際裁判管轄を有しません。

例えば、ウェブサイト上でその名誉を毀損する内容の文章が掲載された場合、日本からのアクセスが禁止されていない限り、その内容が日本国内にいる公衆に伝播され、日本国内でのその人の社会的評価が低下する恐れが生じますので、加害行為の結果が日本において生ずるということとなります。国外のサーバを用いたウェブサイト上にその著作権を侵害する内容のコンテンツが掲載された場合について、送信可能化状態におかれたこと自体が加害行為の結果であってそれは国外で完結している以上、第3条の3第8号により日本の裁判所に国際裁判管轄を認めることはできないとする見解もあります。しかし、著作権侵害の結果として想定されているものの中には、違法複製物や違法な自動公衆送信により、当該著作物にかかる正規商品が代替され、その売り上げが減少することを含みます(著作権法114条1項及び2項参照)。したがって、日本国内に向けて自動公衆送信がなされる限り、日本国内における正規商品の需要の低下という結果が生ずることとなります。送信可能化権というのは、自動公衆送信の準備行為自体を著作物の利用行為としたものですが、日本からのアクセスに対応するものである限りにおいては、その著作物を入手したければそこにアクセスすればよく何も正規商品を購入する必要がないという状況を作り出すことによって、正規商品の販売機会を減少させているといえます。したがって、サーバの所在地がどこであるかにかかわらず、日本国内からのアクセスが可能である限り、日本の裁判所が国際裁判管轄を有するといって差し支えありません。

さらに、排他権を有する権利──特許権や著作権などの知的財産権やプライバシー権やパブリシティ権などの人格権──については、侵害行為の差止めを求める訴えについても、この民事訴訟法第3条の3第8号により、日本国内が加害行為地や被害発生地に含まれる限り、日本の裁判所が国際裁判管轄を有するという見解が有力です。

 消費者契約に関する訴え(第3条の4)

消費者と事業者との間で締結される消費者契約に関する消費者からの事業者に対する訴えは、訴えの提起の時又は消費者契約の締結の時における消費者の住所が日本国内にあるときは、日本の裁判所に提起することができるとされています。このため、ネットサービスを提供している事業者において、日本在住者を主なターゲットとしておらず、日本語のサイト等を用意していなかったとしても、日本国内在住者がその事業者と契約をしたのであれば、その契約に関する訴え(例えば、一方的にサービスが停止されたので債務不履行に基づく損害賠償を請求するなどが想定されます。)は日本に起こすことができます。さらに、この場合、消費者契約の締結の時の消費者の住所が日本国内になくても、訴え提起の時に消費者の住所が日本国内にあれば足りますので、海外にいたときに契約したISPとの法的トラブルについて、帰国後日本の裁判所に提起することもできるということになります。

 債務不存在確認請求と国際裁判管轄

被告の住所地等が日本国内になくても日本の裁判所に国際裁判管轄を認める上記規定は、基本的に、原告が日本国外にいる被告に対し賠償請求や金銭返還請求など、一定の給付を求める訴えを提起する際に適用されるべきもののように見えます。では、賠償金や利用料金を支払えと日本国外に本店があるインターネット事業者から訴訟外で要求されていることから当該事業者を被告として債務不存在確認の訴えを提起する場合に、上記各規定を適用または類推適用して日本の裁判所に国際裁判管轄を認めることはできるでしょうか。

この点については、従前あまり論じられていませんが[注4-03]、例えば「日本において事業を行う者に対する訴え」という文言における「訴え」に債務不存在確認の訴えが含まれるとして債務不存在確認の訴えについてもこれらの規定が直接適用されるとする見解と、国際裁判管轄に関する規定を創設した民事訴訟法の平成23年改正の際に債務不存在確認訴訟における国際裁判管轄をどうするのかについて十分な議論が行われておらず、この点について立法者としての意思表示は特段なされていないので、条理に基づいて判断されるべきとする見解とがあり得るだろうとは思います。そして、後者の見解に立った場合には、上記各条項において日本に国際裁判管轄を認めた趣旨を勘案した上で、債務不存在確認訴訟についてもその趣旨が妥当するのか等を勘案して、日本の裁判所に国際裁判管轄が認められるかを判断するべきだと思います。

 管轄に関する合意(第3条の7)

当事者は、合意により、いずれの国の裁判所に訴えを提起することができるかについて定めることができるとされています(民事訴訟法第3条の7第1項)。ただし、この国際裁判管轄に関する合意は、一定の法律関係に基づく訴えに関するものであることを要し(同条第2項)、かつ、書面(同第2項)または電磁的記録(同条第3項)によってなされる必要があります。多くの契約書や利用規約では、単に国際裁判管轄がどの国にあるのかを指定するのではなく、その国の中のどの裁判所を第一審の専属合意管轄裁判所とするかを指定していますが、それはそれで、その裁判所が置かれている国に国際裁判管轄をおく趣旨を読み取ることが可能です。

実際、日本国外に本社のある事業者によるインターネットサービス事業の大部分は、利用規約等において、日本国外の特定の裁判所を第一審の専属合意管轄裁判所として指定しています。では、このようなサービスに関して事業者と法的な紛争が生じた場合、日本国内の裁判所に訴えを提起することは許されないのでしょうか。

まず、原告が消費者としてそのサービスを利用した結果生じた紛争に関する訴えであれば、消費者契約の締結の時において原告が住所を有していた国の裁判所に訴えを提起することができないとする合意は無効となります(同条第5項第1号)ので、日本国内で消費者契約を締結していれば、民事訴訟法第3条の4第1項により、日本の裁判所に国際裁判管轄が認められると言うことになります。もっとも、ここでいう消費者からは、「事業として又は事業のために契約の当事者となる場合におけるもの」が除外されます(民事訴訟法第3条の4第1項)ので、ビジネスに活かすことも視野に入れてSNSサービスを利用したり、インターネット通販を利用したりする場合に、「消費者」として上記特例を受けられるのかが問題となります。

また、国際裁判管轄に関する合意は「一定の法律関係に基づく訴えに関するもの」であることを要しますので、国際裁判管轄に関する条項を合理的に解釈することにより、当該訴えについては合意の対象に入らないとして、日本の裁判所に国際裁判管轄を認めてしまうとする手法が考えられます。例えば、Twitterの利用規約においては、「本サービスに関連する一切の請求、法的手続または訴訟は、米国カリフォルニア州サンフランシスコ郡の連邦裁判所または州裁判所においてのみ提起されるものとし、ユーザー はこれらの裁判所の管轄権に同意し、不便宜法廷地に関する一切の異議を放棄するものとします。」と定められていますが、「本サービスに関連する」という言葉の意味を「当該ユーザーが発信した情報をTwitter社が媒介して公衆に送信するサービスに関連する」という意味に限定的に解釈した上で、第三者がTwitterを利用して自己の権利を侵害したことによって生じた紛争に関する請求(削除請求や発信者情報開示請求等)はこれに含まれないから管轄の合意の効力が及ばないとするわけです。

さらにいえば、日本国内での訴訟提起を許さない旨の国際裁判管轄の合意は、利用者の利益を害する程度が甚だしいですので、業者側の合意の取り付けが甘い場合には、合意の成立は否定される可能性があります。サービス利用契約自体は意思実現(民法526条2項)により成立が認められたとしても、それだけでは国際裁判管轄の「合意」があったとは直ちには言えないとする解釈もあり得るでしょう。また、約款の内容を知る機会が保障されていた状態で契約を締結した以上実際に約款の内容を見て理解していたか否かにかかわらず約款の内容に拘束される意思があったとする約款法理で、国際裁判管轄の「合意」まであったことにできるのかというとかなり微妙です。したがって、実務的には、まず日本の裁判所に訴訟を提起しておいて、利用規約における合意管轄条項に拘束されない旨を述べておくというのが実際的です。

 インターネット紛争と国内裁判管轄

日本の裁判所に国際裁判管轄があるということになった場合、次いで、日本のどの裁判所に裁判管轄があるのかが問題となります。これは、基本的には、民事訴訟法第4条以下の規定によることになります。不法行為に基づく損害賠償請求訴訟であれば、不法行為があった地(加害行為地及び被害発生地)を管轄する裁判所がこれを管轄することができます。また、財産権上の訴えについては、その義務履行地が日本国内にあればその義務履行地を管轄する裁判所がこれを管轄することができます(例えば、インターネット通販等に関して商品が届かない、代金を返還してくれないということであれば、購入者の住所地が通常義務履行地になりますので、購入者の住所地を管轄する裁判所がこれを管轄することができます。)。また、財産権上の訴えについて、差し押さえるべき財産が日本国内にあるとして日本の裁判所に国際裁判管轄を認めた場合、それらの財産が所在する地を管轄する裁判所がこれを管轄することができます(差押えの対象が債権である場合には、その債権における債務者(第三債務者)の住所地を管轄する裁判所がこれを管轄することができます。)。

しかし、4条以下の規定がうまく当てはまらない場合もあります。例えば、日本国内に事務所・営業所等を置かず、直接日本国内の顧客に対してサービス提供をしている会社について、日本において事業を行う者に対する訴え(第3条の3第5号)にあたるとして、日本の裁判所に国際裁判管轄があるとした場合などです。このような場合は、「最高裁判所規則で定める地を管轄する裁判所の管轄に属する」とされています(民事訴訟法第10条の2)。民事訴訟規則第10条の2をみますと、「法第10条の2(管轄裁判所の特例)の最高裁判所規則で定める地は、東京都千代田区とする。」とありますので、このような場合は、千代田区を管轄する裁判所、すなわち東京地方裁判所または東京簡易裁判所が管轄を有することとなります。したがって、日本国内に事務所又は営業所のない海外のSNSサービス提供者を債務者とする発信者情報開示仮処分等を申し立てる場合、東京地方裁判所の保全部に申し立てることとなります。


[注4-01]日本の裁判所に仮処分の申立てをすることができるのは、日本の裁判所に本案の訴えを提起することができるとき、または係争物が日本国内にあるときに限ります(民事保全法第11条)。したがって、被保全権利に関する給付訴訟に関して日本が国際裁判管轄権を有するかによって、日本の裁判所に仮処分の申立てを行えるかがほぼ決まることになります。

[注4-02]Google Adsenseなどの第三者にどの広告を表示するのかの決定を委ねている場合については争いがあり得ますが、日本在住者からのアクセスによっても広告収入を得ることを前提にそのような第三者と提携して広告表示をしている以上、日本在住者に利用されることを織り込んだサービスと言ってもあながち間違いではないでしょう。

[注4-03]民事訴訟法の平成23年改正において法制審議会国際裁判管轄法制部会委員を務めた山本弘教授は、同法制審議会においては、「そもそも債務不存在確認について何か規定を置くかということを議論して、特に提案はありませんでした」と発言しつつ、「登記・登録に関する債務不存在確認の場合には、日本の登記・登録に関する限り日本が管轄を持つと思います」、「契約上の債務について、その債務不存在確認の訴えが、果たして契約上の義務履行地管轄の『その他契約上の債務に関する請求を目的とする訴え』の中に入るか否かは、今日の報告を考える段階で考えました。要するに、本来権利者がその地へ行って訴えるべきことが契約上予定されている場所で、権利者の側が訴えられているわけですよね。それは権利者の予測可能性を別段害してはいないので、含まれると解釈していいと思っています」としています(「行事記録 第46回シンポジウム 国際裁判管轄 民事訴訟法改正をうけて」ノモス30号181頁〜182頁。)。

 訴状等の送達

訴状は、被告に送達しなければなりません(民事訴訟法138条1項)。訴状を送達することができない場合、裁判長は、命令で、訴状を却下しなければなりません(同条2項が準用する同法137条2項)。また、判決書は、すべての訴訟当事者に送達しなければなりません(同法255条1項)。当事者が判決書の送達を受けた日から二週間が控訴期間なので(同法285条)、判決書のすべての訴訟当事者への送達が完了しないと、いつまでたっても判決は確定しません。

これに対し、民事保全手続きの場合、申立書は債務者に送達する必要がありません。命令が下される前に申立ての内容が債務者に知られると、財産隠しその他の工作をされる危険があるからです。その代わり、保全命令は、当事者に送達しなければなりません(民事保全法17条)。

送達に関する詳細は、民事訴訟法98条以下にて定められています。要点だけを掻い摘まんで説明すると、

  1. 送達は、原則として、送達を受けるべき者に送達すべき書類を交付してする(民事訴訟法101条)
  2. 送達は、原告として、送達を受けるべき者住所、居所、営業所または事務所においてする(同法103条1項本文)。ただし、法人等の代表者に対する送達については、当該法人の営業所または事務所においてすることもできる(において準用される同法103条1項但書)。送達を受けるべき当事者の住所等がわからないとき又は住所等において送達するのに支障があるときは、送達を受けるべき者の就業場所ですることができる(同条2項)。
  3. 当事者、法定代理人(法人等の代表者を含む。)、訴訟代理人は、送達を受けるべき場所を受訴裁判所に届けなければならない(同法104条1項。原告側は訴状において送達を受けるべき場所を記載し、被告側は答弁書において送達を受けるべき場所を記載することで、その届け出を行うのが通常である。)。この届け出があった後は、送達は、その届け出にかかる場所においてすることになる(同条2項)。
  4. 送達は、原則として、郵便又は執行官によってする(同法99条1項)。ただし、裁判所書記官は、その所属する裁判所の事件について出頭した者に対し直接書類を交付することによって、自ら送達することができる(同法100条)
  5. 外国においてすべき送達は、裁判長がその国の管轄官庁又はその国に駐在する日本の大使、公使もしくは領事に嘱託してする(同法108条)。
  6. 当事者の住所、居所その他送達をすべき場所が知れない場合、外国においてすべき送達について108条の規定によることができない場合、108条の規定により外国の管轄官庁に嘱託を発した後6ヶ月が経過してもその送達を証する書面の送付がない場合などにおいては、裁判所書記官は、申立てにより、公示送達をすることができる(同法110条)

ということになります。

では、インターネット紛争を民事訴訟等で解決する場合の現行送達制度上の問題点はいかなるものでしょうか。

一つは、送達先が分からない場合が多いと言うことです。

インターネット紛争は、リアル社会で一切の接点のない者との間で起こることが多いため、原告からすると、被告の住所等が分からない場合が多いのです。もちろん、住所だけでなく氏名さえも分からない場合には、発信者情報開示請求等により当事者を特定するところから始めなければならず、当事者の特定に失敗すれば訴訟を提起する手段は一切なく諦めるよりほかないと言うことになります。しかし、例えば、フリーライターであって、実名とおぼしき氏名を用いている人が開設しているウェブサイトなどで権利侵害行為が行われている場合など、被告の氏名は分かっているのに住所等だけが分からないと言うことが十分にあり得ます。発信者情報開示請求を行うコスト及び発信者情報開示が実際になされる蓋然性等を考えたとき、このような場合について発信者情報開示請求等により被告の住所を特定した上で訴えを提起する必要があるのかが問題となります。現行法の解釈としては、公示送達の要件としては「当事者の住所、居所その他送達をすべき場所が知れない場合」とあるに留まり、「当事者の住所、居所その他送達をすべき場所を知ることができない場合」という文言にはなっていないことから、原告には被告の住所地を積極的に探知する義務まではなく、被告側がその住所等を積極的に開示していない以上、公示送達を用いることができるということができます。もっとも、普通の人は、裁判所の前に並んでいる掲示札を日々チェックしてなどいませんから、訴状等を公示送達の方法で送達した場合、通常被告が口頭弁論に出頭することなく、原告が請求原因事実を一通り証明することで勝訴判決を勝ち取ることができ、通常それで控訴期間を徒過して判決が確定してしまいます。原告側として被告の住所等が分からず訴状等の送達先が分からないと言うだけで、原告にそのような利益を与えて良いものだろうかということはやはり躊躇せざるを得ません。これまでも、現実には、公示送達の申立を行うにあたっては、住民票上の住所地に事務員を派遣して郵便受けの状況を写真に撮ったり、近所の人たちから聞き込みをしたりして作成した報告書を提出したりしてきたわけです。したがって、インターネット紛争において被告の氏名は分かるが住所等が分からないという場合であっても、これと同程度のコスト負担で良いのであれば一定の調査を事実上義務づけてもいいのでしょうが、ただ、発信者情報開示請求訴訟までする義務を負わせるのは過大な負担を課すことになってしまうかと思います。ですから、このような場合には、当該被告の住所・就業先等を知る手がかりが明記されていないことの報告書を添付して原告が公示送達の申立をした場合には、公示送達の方法が採用されるべきだと思います。もっとも、その場合でも、被告の攻撃防御権を不当に損なわないようにするために、電子メールその他の方法で当該被告に対して通知を行うことが可能な場合には、訴状等の公示送達手続きがなされていることを当該方法を用いて裁判所から被告に伝えるといったシステムが採用されることが必要なのではないかと思います。

もう一つは、国外のサービス事業者を相手方とするときの問題です。

通常は、受訴裁判所の裁判長→受訴裁判所の所長→最高裁判所事務総局→外務省領事局→在外日本国総領事館というルートで転々と嘱託がなされ、相手国に駐在する日本国の領事官が被告に送達する「領事送達」の方法が用いられます。ただし、「送達」という権力的行為を相手国内で日本の領事官が行う以上、相手国の事前の了承が必要です。基本的には、①日本と相手国との間の二国間条約によって特に領事送達が認められている場合、②相手国が民事又は商事に関する裁判上及び裁判外の文書の外国における送達及び告知に関する条約(以下、「送達条約」といいます。)または1954年の民事訴訟手続に関する条約(以下、「民訴条約」といいます。)の締結国であって、同国内での領事送達を拒否する宣言を行っていない場合、③相手国が送達条約または民訴条約の締結国であって、同国内での領事送達を拒否する宣言を行っているが、被告が同国内にいる日本人である場合、に限られます。これらの条件に合致していない場合には、相手国内の日本大使館から相手国の指定当局に送達を嘱託するか(相手国が民訴条約締結国である場合)、日本の最高裁判所事務総局から相手国の中央当局に嘱託する(相手国が送達条約加盟国である場合)こととなります。相手国との間に送達に関する二国間条約がなく、かつ、相手国が民訴条約も送達条約も締結していない場合には、領事送達も、指定当局送達も、中央当局送達もできないと言うことになります。そのような場合には、公示送達の方法により送達がなされることとなります。

このような国外送達手続きの最大の問題点は、時間がかかりすぎることです。比較的スムーズに事務処理が進む米国向けの領事送達ですら通常3ヶ月程度はかかるとされています。領事送達でも4ヶ月、5ヶ月かかるのはざらであり、指定当局送達や中央当局送達であれば送達完了までに数年かかることも珍しくはないようです。さらに問題なのは、民事訴訟法110条の規定にも関わらず、送達嘱託状を嘱託先に送付してから6ヶ月がたった程度では、裁判所は公示送達に踏み切らない場合が多いとされている点です(古田啓昌「国際民事訴訟法入門 国内訴訟との対比で考える」106頁)。

発信者情報開示仮処分の場合、公衆向けウェブサーバに発信者が権利侵害情報を投稿してから3ヶ月以内にIPアドレス及び投稿日時を取得して投稿に用いられたアクセスプロバイダに発信者情報開示請求をしないとアクセスログが消去されているおそれが高いので、このような悠長な送達手続きによってなどいられません。一時期は、審尋なしで裁判所が発信者情報開示仮処分命令を下し、債権者側で命令書きの写しを債務者側にメール等で送信することにより、送達手続きに頼らずにIP アドレスの開示を受けるという運用が行われていたようです。最近は、双方審尋期日への呼出は送達の方法による必要はないとして国際スピード郵便の方法を用いて呼出状を送るという手法が採用されているようです。ウェブサーバを提供していた業者の側が審尋期日出頭のために日本の弁護士を代理人に選任してくれれば、あとは命令書を含め、その弁護士に充てて送達をすれば良いので、3ヶ月というタイムリミットに間に合う場合が多くなっています。

とはいえ、例えば、権利侵害の疑いのある投稿についてウェブサーバ提供者に削除を求める場合、ドメイン紛争について所定の裁判外紛争解決機関による裁定に不満があって裁判所に出訴する場合、国際的なインターネット通販においてトラブルが発生した場合などにおいて、訴状等の送達だけで数ヶ月または数年もかかるというのでは、インターネット上の紛争を民事訴訟制度において解決すると言ってみてもまさに絵に描いた餅という感じがしてしまいます。相手方当事者が外国にいる場合の送達期間を飛躍的に短縮する立法はできないものでしょうか。

 訳文の添付

 執行