ネット上の中傷対策──放置

 弁護士 小 倉  秀 夫

 ネット上で中傷されていても、放置しておいた方がいいという場合は、確かにあります。

がこれにあたります。

 ただし、以下の点は注意が必要です。

その中傷投稿の影響力が取るに足りない場合

 その投稿の影響力は、その投稿及びその投稿者だけで判断することはできません。

 その投稿がメジャーでない電子掲示板に投稿されたものであろうが、匿名の投稿者によって投稿されたものであろうが、自分の名前をキーワードとしてウェブ検索をかけたときに比較的上位に表示されるようになっていれば、自分に関心を持ってくれた人の目にとまる危険があります。また、その投稿がフォロワーの少ない投稿者によって投稿されたものであっても、自分の名前をキーワードとしてウェブ検索をかけたときに比較的上位に表示されるようになっていれば、自分に関心を持ってくれた人の目にとまる危険があります。さらに、Twitterへの投稿の場合、フォロワーの多い誰かがそのツイートをRTすれば、一気にその投稿は多くの人々の目に触れることになります。

 ネット上での誹謗中傷で一番怖いのは、悪口を言われて自分が精神的に傷つくことではなく、自分のことをそんなに良く知らない人が、自分に関心を持ってくれたときに、間違った情報が伝わることです。自分のことをよく知ってくれている人ならば嘘だと判ってくれることでも、自分のことをそんなに知らない人であれば、ひょっとしたらそうなのかも知れないと信じてしまうことがあり得るのです。

 なので、投稿者の影響力が小さいと理由で中傷投稿を放置する場合、定期的にその影響力が大きくなっていないか、確認しておくことが必要となります。

その投稿内容が明らかに嘘と判る場合

 常識的に考えれば嘘とわかる投稿でも、真に受けてしまう人が少なくないことが既に知られています。だから、素人考えで「こんな投稿誰も信じないだろう」と判断してしまうのは、危険です。

 だいたいどういう人たちがどういうデマに飛びついて信じ込むのかと言うことは、SNS等に関与する時間の長い弁護士はある程度感覚的に判っています。だから、そういう弁護士に相談することで、自分との関係で、それらの人たちに信じられても構わないと切り捨てられるのかを確認することが肝要です。とりわけ、広い範囲の人々から好感度を持たれなければならない地位に就いている人や就こうとしている人たちは、相当程度デマに影響されやすい人たちからも憎まれたり、蔑まれたりしないようにする必要がありますので、中傷投稿を放置することはリスクが高いといえます。阪神淡路大震災における村山首相の対応に関するデマを放置していたことは、社民党衰退の一つの要因になったとすら私は考えています。

図星であり、反論しがたい場合

 この場合、放置するというより、放置せざるを得ないというのが正直なところです。投稿の削除や発信者情報の開示請求等を仕掛けても、功を奏しない場合が多いからです。

 ただし、中傷の内容が個人的なことである場合には、プライバシー権侵害にあたるとか、公共の利害に関する事実ではないという理由で、削除要求が通ることがあります。中小企業の代表取締役程度の公人性では、その私的な事情(例えば、不倫しているとか、会社の子に手を出したとか)は、真実であるか否かにかかわらず、公開されない利益が認められる可能性が十分にあります。この辺りは、名誉毀損やプライバシー権侵害に関する裁判例に詳しい弁護士に相談した方が良いと思います。


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